2024年8月に閣議決定された第五次循環型社会形成推進基本計画は、副題に「循環経済を国家戦略に」を掲げました。これに前後して経済産業省の「循環経済工程表」や内閣府の「循環経済行動計画」といった文書が相次いで打ち出され、サーキュラーエコノミー(以下、CE)を語る議論はにわかに勢いを増しています。しかしながら、これら近年の政策文書がいずれも参照している大本の根拠法――2000年に制定された循環型社会形成推進基本法そのもの――に立ち戻る機会は、実は意外に少ないのではないかと感じます。本稿では同法を改めて読み直すことを通じて、なぜこの法律が「CE法体系の背骨」と呼ばれてきたのか、そして現在進行中の議論が結局のところどこに接続しているのかを整理してみたいと考えます。
●立法の背景――なぜ2000年だったのか
循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)は、2000年6月2日に公布され、第15条・第16条の循環型社会形成推進基本計画に係る規定については翌2001年1月6日から施行されました。立法に至る背景を一言でまとめるならば、1990年代後半に日本が直面していた廃棄物問題の深刻化と、それに対応するためにすでに走り始めていた個別リサイクル法群を、上位の理念で束ね直す必要が生じた、ということになります。
少し時代を遡ると、1990年代後半の日本では、最終処分場の残余容量が逼迫し、首都圏では「数年で埋立地が満杯になる」という見通しが繰り返し報道されていました。豊島事件に代表される産業廃棄物の不法投棄、廃棄物焼却施設から発生するダイオキシン類の問題が社会的争点となり、廃棄物処理法(1970年制定)の枠組みのままでは対応が追いつかないことが明らかになっていきます。そこに、個別品目ごとの循環ルートを作り込む動きとして、容器包装リサイクル法(1995年)、家電リサイクル法(1998年)が先行的に整備されました。しかし、これらは個々の品目について「どう回すか」を規律するものであって、社会全体としてなぜ循環させなければならないのか、何を優先するのかという理念面の指針は、当時まだ法的に明文化されていませんでした。
この状況に対し、上位の環境基本法(1993年)の理念――とりわけ第4条「環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築」――を、廃棄物・資源循環の領域で具体化する基本法として位置づけられたのが、循環型社会形成推進基本法です。同年に資源有効利用促進法が全面改正され、翌2001年には食品リサイクル法、建設リサイクル法、グリーン購入法が相次いで施行に向けて整備されたことを併せて見ると、2000年は日本のCE法体系にとっての「結節点」の年であったと言ってよいと思います。同法は、上は環境基本法の理念を受け止め、下は個別法群を統括する――いわば「天井と床のあいだの梁」として設計された法律であった、と整理することができます。
●同法の構造――三章三十二条の骨格
同法は全三章、三十二条の構成です。第一章「総則」(第1条-第14条)に目的、定義、基本原則、各主体の責務を、第二章「循環型社会形成推進基本計画」(第15条-第16条)に基本計画の策定義務を、第三章「循環型社会の形成に関する基本的施策」(第17条-第32条)に国・地方公共団体が講ずべき具体的施策を、それぞれ配置しています。
まず第2条の定義条項に注目したい。同条は「循環型社会」を「製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」と定義しています。あわせて「廃棄物等」「循環資源」「循環的な利用」「再使用」「再生利用」「熱回収」といった、その後のCE実務で標準語彙となる用語が、同条の各項で網羅的に定義されています。後続の個別リサイクル法でこれらの語が共通に用いられるのは、すべてこの第2条が起点となっているためです。
もうひとつ注目すべきは、第二章にわざわざ「基本計画」のための独立した章を割いている点です。基本法というと宣言的な条文が並ぶ印象を持たれがちですが、本法は第15条で政府に対し「循環型社会形成推進基本計画」の策定を義務付け、おおむね5年ごとの見直しを規定しています。理念を理念で終わらせず、定期的な計画策定という装置で実装の水準を引き上げ続ける――この設計が、20年以上にわたって本法が法体系の背骨として機能してきた最大の理由ではないかと考えます。
●3R+2の優先順位――第7条が定めた核心
同法の中核思想は、第7条「循環資源の循環的な利用及び処分の基本原則」に集約されます。同条は、循環型社会形成推進基本法第7条は、循環資源について、技術的及び経済的に可能な範囲で、①再使用、②再生利用、③熱回収、④適正処分の順に優先的に行うべきという基本原則を定めています。これに第5条が定める「原材料、製品等が廃棄物等となることの抑制」(発生抑制)を冒頭に置くと、いわゆる「3R+2(発生抑制・再使用・再生利用・熱回収・適正処分)」の優先順位が完成します。(図1参照)

注意したいのは、循環資源の取扱いに関する優先順位が「機械的な絶対則」ではなく、技術的・経済的な可能性を踏まえた「環境負荷低減上の最大限考慮事項」として規定されている点です。第5条及び第7条は、発生抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分という優先順位を示しつつも、他の手法を採用することが環境負荷の低減により有効である場合には、その手法を選択することも考慮すべきとしている点です。つまり、ライフサイクル全体での環境負荷比較に基づく柔軟な運用を許容しています。このため、CE実務において「リサイクルよりも、製品の修理・長寿命化の方が環境負荷低減に資するのか」といった判断は、ライフサイクル全体での環境負荷比較を踏まえて行われることになります。
国際的に見ると、EUが廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive)で同様の優先順位(Waste Hierarchy)を法制化したのは2008年改正時です。日本がこれより先に2000年の段階で優先順位を法律上明示していた事実は、もう少し意識されてよいように思います。CE関連の議論ではどうしても欧州の動きが先行している印象が強く語られがちですが、優先順位の明文化という基層部分については、むしろ日本のほうが先行していたという経緯があります。
●二つの責任原則――排出者責任と拡大生産者責任
第11条「事業者の責務」もまた、本法を読むうえで外せない条文です。同条第1項は、事業活動に伴って発生した循環資源について事業者が自ら適正に循環的な利用を行い、又は循環的な利用が行われない循環資源を自らの責任において適正に処分する責務を規定しており、これがいわゆる排出者責任の原則化に相当します。続く第2項から第4項にかけては、製品・容器等の製造販売事業者に対し、耐久性の向上、修理体制の充実、設計段階での材質・成分表示、引取り・引渡しなどの責務を課しており、これが拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility、EPR)の原則化に対応します。
排出者責任と拡大生産者責任という二つの責任原則を、ひとつの基本法のなかで連続した条文として規定したこと――これが、後続の個別リサイクル法における役割分担設計(消費者・小売業者・市町村・製造業者の三者ないし四者分担)の法的根拠となっています。家電リサイクル法における「消費者がリサイクル料金を負担、小売業者が引取り・引渡し、製造業者が再商品化」という三者分担、容器包装リサイクル法における「消費者の分別排出、市町村の分別収集、特定事業者の再商品化」という三層分担、自動車リサイクル法の預託金方式――いずれの費用負担構造も、第11条の解釈と組み合わせのバリエーションとして説明することができます。品目ごとに費用負担構造が異なって見えるのは、第11条が品目特性に応じた柔軟な組み立てを許容しているからにほかなりません。
●基本計画から「循環経済を国家戦略に」へ
第15条に基づく基本計画は、2003年の第一次から数えて、2024年8月に閣議決定された第五次でちょうど五度目の改訂を迎えました。第五次計画はその副題に「循環経済を国家戦略に」を掲げ、(1)循環経済への移行による持続可能な地域・社会づくり、(2)動静脈連携による資源循環の徹底、(3)多様な地域循環システムの構築、(4)資源循環・廃棄物管理基盤の強化、(5)適切な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開、の五つの重点戦略を打ち出し、2030年度を目標年次とする数値目標群を設定しています。
近年話題に上る経済産業省の「循環経済工程表」、内閣府からの「循環経済行動計画」、あるいは個別業界(自動車、電池、繊維、プラスチック等)に関する各種の政策文書は、しばしばこの基本法から独立した別系統の動きと受け止められがちです。しかし制度的にはむしろ逆で、これらの行動計画類は第15条の循環型社会形成推進基本計画と相互参照する関係にあり、上位の理念・優先順位を実装するための具体的アクションプランとして整理するのが、法体系の構造としては素直な読み方になります。基本法はあくまで「背骨」であり、その上に省庁横断の基本計画と業界別・分野別の行動計画が積み重なっていく――この見取り図を一度押さえておくと、矢継ぎ早に発信される政策文書を読むときの座りがずっと良くなると思います。
こうした上位計画の動きと連動する形で、2025年5月には資源有効利用促進法が大幅に改正されました(令和7年法律第48号、2026年4月施行)。改正の柱は、(1)再生資源(リサイクル材)の利用に関する計画策定・定期報告の義務化、(2)環境配慮設計の認定制度の創設、(3)脱炭素化に資する再生資源(「脱炭素化再生資源」)の利用義務制度の導入、(4)シェアリング等の「CEコマース事業者」を法的に位置づけたうえでの規律の整備、の四点に整理できます。一般法層が従来の「使い切る場面」の規律から「再生材を使う・設計段階から循環を組み込む」場面の規律へと大きく踏み込んだ改正であり、上位の基本計画が描く方向性を一般法レベルで実装する立法と位置づけられます。基本法は変わらずとも、その下の一般法が時代の要請を受けて厚みを増していく――本法体系の動き方として象徴的な改正と言ってよいでしょう。このあたりについてはいずれまた改めてご案内できればと思っています。
なお、第五次計画で「循環経済を国家戦略に」というメッセージが前面に出てきた背景には、CEを単なる廃棄物・資源循環の問題ではなく、経済安全保障(重要鉱物の自律供給)、産業競争力(脱炭素対応との連動)、地域経済(地域内資源循環)といった広い文脈に結び直す政策意図があります。同じ「循環」という言葉でも、2000年制定当時の「廃棄物減量・適正処理の延長線上の循環」と、2024年現在の「国家戦略としての循環」とではニュアンスが相当変わってきている――この変化を読み取るうえでも、基本法そのものに立ち戻って何が変わっていないかを確認しておく作業には意味があると考えます。(図2参照)

●実務への落とし込み
循環型社会形成推進基本法は、企業に具体的な義務を直接課す法律ではありません。しかし、自社の事業がCE関連の議論のどこに位置づくのかを言語化したいとき、その判断軸を提供してくれるのは結局のところこの基本法です。とりわけ第7条の優先順位(再使用が再生利用より上位、再生利用が熱回収より上位)は、自社の取り組みが「上位の3R」に貢献するのか「下位の3R」にとどまるのかを判別するうえで、極めて有用な物差しとなります。たとえばリペア・メンテナンス事業や中古品流通事業は第7条上位の「再使用」に該当し、マテリアルリサイクルは「再生利用」に、かつてサーマルリサイクルと呼ばれた多くの焼却処分は「熱回収」に位置づけられる――この序列を踏まえることで、自社事業の社会的意義をCE法体系の言葉で過不足なく説明することができるようになります。
CE関連の事業判断において、ともすれば派手な再資源化技術や新興ビジネスへ目が向きがちですが、その評価軸は2000年6月のこの基本法、なかんずく第7条と第11条のなかにすでに書き込まれている、というのが本稿の含意です。第五次基本計画と循環経済行動計画、そして2025年改正の資源有効利用促進法を読み解くにあたっても、まずこの背骨に立ち戻る――いささか地味なようですが、それが実務的にはもっとも近道だと考える次第です。
著者プロフィール
合同会社オフィス西田 チーフコンサルタント 西田 純
脱炭素と循環経済をおカネに変えて成長につなげる方法論の第一人者。産学連携・企業間連携による循環経済モデルの実践と増客を様々な事例で実現し、環境ビジネスを中心としたクライアントから高い評価を得ている。国連工業開発機関UNIDOに職員として16年勤務、多国間環境条約に関わる技術協力事業に多数関わる。国連を介した環境協力の実態や国際交渉の裏側をつぶさに見聞した経験に基づき、サステナビリティ実現のための「思想設計力」が持つ価値の重要性を訴えている。UNIDO公認フィージビリティスタディトレーナー。