趣旨
GX推進法(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素と経済成長の両立(GX)を国家主導で推進するため、2023年に制定された法律である。
各国において脱炭素関連投資の競争が激化しており、日本においても企業の脱炭素対応を加速させるとともに、成長機会として取り込む必要性が高まっている。このような背景のもと、本法は、政府による戦略策定および資金供給とあわせて、企業に対して脱炭素化を促す制度的枠組みを整備することを目的としている。
法令リンク
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律 | e-Gov 法令検索
環境省による概要説明資料
000110823.pdf
経緯
気候変動対策に関する国際的な枠組みは、1997年に採択された京都議定書に端を発する。同議定書は先進国に対して温室効果ガスの削減義務を課した初の国際的枠組みであったが、中国やインドなどの新興国が対象外であったことや、アメリカ合衆国が離脱したことにより、世界全体の排出削減には限界があった。
こうした課題を踏まえ、2015年にはパリ協定が採択され、先進国・新興国を含むすべての国が参加する枠組みへと転換された。同協定では、各国が自主的に削減目標(NDC)を設定し、長期的に脱炭素社会の実現を目指すこととされたが、その達成は各国の政策対応に委ねられており、実効性は国内制度の整備に依存する構造となっている。
このような国際的要請のもと、日本においても2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業の脱炭素投資を加速させる制度的枠組みの構築が求められるようになった。特に、従来の補助金中心の政策に加え、排出にコストを課すカーボンプライシングなどの市場メカニズムを活用し、民間投資を誘導する必要性が高まった。
こうした背景を踏まえ、日本では2023年にGX推進法が制定され、脱炭素と経済成長の両立を図りつつ、企業の設備投資やエネルギー転換を制度的に後押しする枠組みが整備された。
本法の詳細
日本の法律の多くは第1条でその趣旨や目的を定めている。本法もその例に漏れず、第1条はその目的を定めた条文である。以下、条文を引用する。
第1条 この法律は、世界的規模でエネルギーの脱炭素化に向けた取組等が進められる中で、我が国における脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するため、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の策定、脱炭素成長型経済構造移行債の発行並びに化石燃料採取者等に対する賦課金の徴収及び特定事業者への排出枠の割当てに係る負担金の徴収について定めるとともに、脱炭素成長型経済構造移行推進機構に脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する事業活動を行う者に対する支援等に関する業務を行わせるための措置を講じ、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
上の目的達成のため、本法は以下の4つの柱から構成される。
(1). GX推進戦略の策定・実行(政府による中長期方針の明確化)
→ 関連条文:第6条
(2). GX経済移行債の発行(脱炭素投資のための財源確保)
→ 関連条文:第7条
(3). GX推進機構の設立(民間投資の支援・制度運営)
→ 関連条文:第20条~29条、54条など
(4). 成長志向型カーボンプライシングの導入(排出に対する経済的負担の付与)
→ 関連条文:第11条、15~17条など
このうち、特にカーボンプライシングの導入は企業への影響が大きい。これは、化石燃料の使用やCO₂排出に対してコスト負担を課す仕組みであり、企業には設備更新やエネルギー効率改善への継続的な投資が求められるためである。
今後の動向
GX推進法に基づく制度は、カーボンプライシングを中心に段階的に強化されていく予定であり、企業に対する規制・負担は中長期的に拡大する見込みである。
2026年度
2026年4月1日より改正GX推進法が施行される。この改正により、排出量取引制度(GX-ETS)が本格導入され、CO₂排出量の多い企業(年間約10万t以上、国内で約300〜400社)に対して参加が義務付けられる。対象企業には、排出量の算定・報告、排出枠の確保・償却、削減計画の策定が求められ、未達の場合は追加的な金銭負担が発生する。
経済産業省による改正案(既に可決)→「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました (METI/経済産業省)
2028年度
化石燃料事業者などを対象に化石燃料賦課金が導入され、燃料の使用量に応じてコスト負担が発生する仕組みが開始される。これにより、エネルギーコストの上昇圧力が強まる。
2033年度
排出量取引において排出枠の有償オークションが本格化し、CO₂排出そのものに対するコスト負担が一層顕在化する。
このように、今後は排出量そのものにコストがかかる構造へと移行していくため、企業には継続的な排出削減と設備の高効率化が求められる。
設備機械のリペア・メンテナンスへの影響
GX推進法により、企業は排出量削減とエネルギー効率向上を継続的に求められるようになり、設備投資の必要性と負担が大きく増加する。
従来は設備を自社で保有し更新することが一般的であったが、GX対応においては、技術進化のスピードが速く、かつ規制強化が段階的に進むため、設備を自社で保有し続けることは、投資回収リスクや陳腐化リスクの観点から非効率となる可能性が高い。
このような環境下では、設備を「保有」するのではなく、「サービスとして利用」するEaaSの有効性が高まる可能性が高い。特に、継続的な設備更新と運用最適化が求められるメンテナンス領域においては、EaaSモデルとの親和性が高い。EaaSを活用することで、初期投資を抑えつつ最新の省エネ設備を導入できる、規制強化や技術進化に応じた設備更新を柔軟に行える、メンテナンスや運用最適化を含めた継続的な排出削減が可能となるといったメリットがあり、GX対応に伴うコスト増加とリスクを抑制する手段となり得る。