「廃棄物処理法改正」を読む。スクラップヤード規制と災害廃棄物対応、資源循環と防災を貫く二つの柱

2026年7月30日 更新

著者:合同会社オフィス西田 西田 純

廃棄物の処理及び清掃に関する法律」――いわゆる廃掃法が、久方ぶりに実体面で大きく手を加えられました。2026年(令和8年)6月19日に公布された令和8年法律第43号「廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の一部を改正する法律」がそれにあたります。

同法案は同年4月10日に閣議決定されて第221回国会に提出されたのち、5月26日に衆議院、6月12日に参議院をそれぞれ通過して成立しました。本欄ではこれまで、循環型社会形成推進基本法を「背骨」として、その下に廃掃法と資源有効利用促進法という横断的な一般法が置かれ、さらに個別リサイクル法群が積み重なるという体系図を「日本のサーキュラーエコノミー(CE)関連法体系を「層」で読み解く」で、ご紹介してきました。今回の改正は、そのうち一般法の一角を担う廃掃法そのものに手が入ったという意味で、法体系の骨格に関わる動きだと位置づけられます。

もっとも、今回の改正を一読して戸惑うのは、性格の異なる二つの柱が「等」の一字のもとに束ねられている点かもしれません。一方はスクラップヤードに対する新たな規制であり、他方は災害廃棄物への対応強化です。資源循環の秩序づくりと、防災・減災の備えと――一見すると別々の政策課題に見えるこの二つが、なぜ同じ改正法のなかに同居することになったのか。

本稿では、それぞれの柱がどのような現場の問題意識から立ち上がってきたのかを、具体的な事例を手がかりにたどりながら整理してみたいと思います。

●立法の背景――二つの問題意識が一本の改正に合流するまで

今回の改正の土台となったのは、2025年(令和7年)2月から2026年(令和8年)3月にかけて開かれた、中央環境審議会循環型社会部会の廃棄物処理制度小委員会での審議です。同小委員会での議論を経て、2026年4月7日に中央環境審議会会長から環境大臣に対して「今後の廃棄物処理制度のあり方について」の意見具申が行われ、これを受ける形で改正法案が閣議決定されました。

この審議で並行して論じられた課題が、まさに前述の二つでした。ひとつは、使用済みの金属・プラスチック物品を保管・再生する事業場――いわゆるスクラップヤード――をめぐる生活環境上の支障です。近年、一部のヤードで騒音や水質汚濁、火災といった問題が各地に生じ、良好な生活環境の保全と公正な競争環境の整備が急務となっていました。

もうひとつは、大規模災害時に生じる膨大な災害廃棄物を、いかに適正かつ迅速に処理するかという課題です。令和6年能登半島地震をはじめとする近年の災害対応を通じて、平時からの備えと被災自治体への支援体制に、なお埋めるべき隙間があることが明らかになっていました。

資源循環と防災という異なる文脈から立ち上がった課題ですが、いずれも「廃棄物をどう適正に扱うか」という廃掃法の中核的な関心に直結しています。だからこそ、両者は一本の改正法のなかに束ねられることになったわけです。以下、それぞれの柱を、現場の事例に照らしながら見ていきます。

●改正の骨格――「等」の一字が束ねる二つの柱

本改正は、廃掃法を中心に関係法を束ねて改正するものです。柱は大きく二つ。第一が、スクラップヤードを対象とする規制の新設であり、使用済みの金属・プラスチック物品の保管又は再生を行う事業について、新たに許可制を導入するものです。第二が、非常災害により生じた廃棄物の処理を円滑に進めるための、平時からの備えと支援体制の強化です。

後者に関しては、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の業務範囲を広げるなど、廃掃法以外の関係法にも改正が及んでおり、法律名に「等」の字が付されているのはそのためです。

●第一の柱・スクラップヤード規制――千葉県の条例先行が映すもの

まず押さえておきたいのは、スクラップヤードに対して、これまで実効的な規制が十分に及んでこなかったという事情です。使用済みの金属やプラスチックは、多くの場合、有価で取引される「有価物」として扱われます。有価物である以上、それは廃棄物処理法にいう「廃棄物」には当たらず、廃棄物としての許可や基準の網はかかりません。

2017年(平成29年)改正で有害使用済機器の保管等に関する届出制度が設けられ、一部のヤードは届出の対象とされましたが、対象となる機器が限られるうえ、届出にとどまる緩やかな仕組みであったため、多くのヤードは依然として実効的な規制の外に置かれていました。そして現実には、こうしたヤードの一部で、高く積み上げられたスクラップの崩落、金属くずの破砕・切断に伴う騒音や振動、油分の流出による土壌・水質の汚染、そして火災といった、周辺の生活環境を脅かす事態が各地で生じてきました。有価物として扱われるがゆえに廃掃法の廃棄物規制で捕捉しきれない――この制度の隙間こそが、長年の懸案だったわけです。

環境省が2025年度(令和7年度)に都道府県等を通じて行った実態調査は、この問題の広がりを裏づけました。自治体へのアンケートを通じて全国で4,000事業場を超えるヤードが確認され、そのうち一部で、騒音や悪臭、水質・土壌の汚染、火災といった生活環境上の支障が報告されています。近年はとりわけ、使用済みのリチウムイオン蓄電池がスクラップに混入し、重機による荷役で破損してショート・発火する火災が相次いでおり、規制対象外の物品に起因する新たなリスクとしても注目されています。

この問題に、国に先んじて条例で立ち向かったのが千葉県です。県内のヤードは全国でも最も多いとされ、支障事例も集中していました。県の把握では、78か所で騒音・振動、34か所で油汚染、27か所で火災が確認され、さらに73か所では外壁より高くスクラップが積み上げられ崩落の恐れがあるとされています。こうした状況を受けて、千葉県は2023年(令和5年)10月、都道府県として全国で初めて「特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例」(通称・金属スクラップヤード等規制条例)を制定し、翌2024年4月に施行しました。ヤードの設置を許可制とし、現場責任者の配置を義務づけ、基準に違反した場合の措置命令や罰則までを備えた、踏み込んだ内容です。

ただし、条例による規制には限界もあります。規制はあくまで当該自治体の区域内にとどまるため、規制を嫌う事業者が隣接する規制の緩い地域へ移動してしまえば、問題はただ場所を変えて再燃するだけです。千葉県に続いて条例を設ける自治体が相次いだこと自体が、裏を返せば「一自治体だけでは抑えきれない」という限界の表れでもありました。今回の廃掃法改正は、この積み重なった自治体の問題意識を国の制度として受け止め、全国一律の許可制へと引き上げたものと理解できます。

具体的には、使用済みの金属・プラスチック物品のうち適正な保管・再生を要するものの保管又は再生を行う事業について、都道府県知事の許可を要することとし、政令で定める基準の遵守を求めます。あわせて、有害性が懸念される一定の物品については、その再生や保管をなるべく国内で適正に行うべきものとしたうえで、輸出しようとする際には環境大臣の確認を受けることを求めることとしました。有価物ゆえに実効的な規制から漏れ落ちていたヤードを、廃掃法の許可体系のなかに正面から組み込む――これが第一の柱の核心です。

●第二の柱・災害廃棄物対応――能登半島地震の教訓を制度に刻む

第二の柱は、大規模災害への備えです。こちらの背景を最も雄弁に物語るのが、令和6年能登半島地震の災害廃棄物処理の現場でした。倒壊した家屋の解体や片付けに伴って生じた災害廃棄物は、石川県内だけで約410万トンと推計されています(2025年1月時点)。平時の処理体制で短期間にさばききれる量ではなく、通常の廃棄物処理の延長線上では対応しきれない規模です。

能登の対応が突きつけた教訓のうち、とりわけ重かったのが「人材の不足」でした。発災直後こそ国などの応援によって事務体制が支えられたものの、時間の経過とともに応援の人員は細っていきます。ところが家屋の解体が本格化するのはむしろその後であり、被災した市や町では、解体の申請受付、工事前の調整、全体の工程管理といった膨大な事務を担う人手が、まさに必要なときに足りなくなるという事態に陥りました。

加えて、浄化槽の点検・補修や引き抜いた汚泥の処理といった、専門的な知識と経験を要する業務でも人材の払底が指摘されています。技術や資金の問題である以前に、現場を回す人がいないという、より根源的なボトルネックが露わになったわけです。

今回の改正は、この教訓を制度に刻み込みました。平時からの備えとしては、市町村が定める一般廃棄物処理計画に非常災害時の廃棄物処理に関する事項を盛り込むこととし、地方公共団体と民間事業者等とのあいだで災害時の処理に関する協定の締結を促すとともに、非常災害時に生じた廃棄物の埋立処分に使える最終処分場を確保するための指定制度を新設します。そして、能登で最も欠けていた「人」の問題に応えるのが、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の活用です。JESCOはもともとポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の処理などを担ってきた国関与の会社ですが、今回その業務範囲に非常災害廃棄物に関する事業を加えることで、被災自治体へ専門的な知見を持つ人材を派遣するなどの援助を行えるようにしました。個々の自治体が偶発的な応援に頼るのではなく、国が関与する常設の主体を通じて支援を安定的に届ける――ここに、この柱の眼目があります。

●施行のスケジュール――緊急性に応じた二段構え

二つの柱は、施行の時期も性格に応じて分けられています。スクラップヤード規制については、許可制の導入という新たな仕組みを現場に定着させるための準備期間を見込み、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日から施行されます。対して災害廃棄物対応の規定は、いつ起こるとも知れない次の災害に一日でも早く備える必要があることから、公布の日から3か月を超えない範囲で政令が定める日など、速やかな施行が予定されています。同じ改正法のなかでも、資源循環の秩序づくりは腰を据えて、防災の備えは急いで――というメリハリが、施行日の設計にもそのまま表れているわけです。

●実務への落とし込み――背骨に立ち戻って読む

最後に、この改正をどう受け止めればよいのかを、私なりに整理しておきます。一見すると、スクラップヤードの許可制と災害廃棄物への備えという二つの柱は、資源循環と防災というまったく別の話に見えます。しかし、いずれも「廃棄物を適正に扱う」という廃掃法本来の関心に立ち返れば、同じ根から伸びた枝であることが分かります。片や、有価物という理由で実効的な規制の網から漏れていた領域を廃掃法の秩序のなかに取り込む動きであり、片や、非常時に大量に生じる廃棄物を平時から適正に処理できるよう備えを固める動きです。どちらも、廃掃法が守るべき「良好な生活環境の保全」という目的の、これまで手薄だった二つの縁を埋めにきた改正だと理解できます。

そして、この改正を法体系のなかに位置づけるなら、やはり循環型社会形成推進基本法という背骨に立ち戻るのが近道です。第一の柱は、有価物として循環の輪のなかにありながら適正な管理を欠いていたヤードを規律の対象とすることで、資源循環の「質」を担保しようとするものと読めます。第二の柱は、災害という非常時にあっても廃棄物の適正処理を貫こうとするものであり、いずれも基本法が掲げた理念を、廃掃法という一般法の水準で具体化する営みにほかなりません。

目新しい規制や制度に目を奪われる前に、それが既存の法体系のどこに接続し、何を新たに付け加えたものなのかを冷静に見定める――今回の廃掃法改正についても、その作法は変わらないと考えます。スクラップヤード規制の政省令の中身や、災害廃棄物対応の実際の運用については、施行に向けた詳細が固まってきた頃合いを見て、いずれまた改めてご案内できればと思っています。

著者プロフィール

合同会社オフィス西田 チーフコンサルタント 西田 純

脱炭素と循環経済をおカネに変えて成長につなげる方法論の第一人者。産学連携・企業間連携による循環経済モデルの実践と増客を様々な事例で実現し、環境ビジネスを中心としたクライアントから高い評価を得ている。国連工業開発機関UNIDOに職員として16年勤務、多国間環境条約に関わる技術協力事業に多数関わる。国連を介した環境協力の実態や国際交渉の裏側をつぶさに見聞した経験に基づき、サステナビリティ実現のための「思想設計力」が持つ価値の重要性を訴えている。UNIDO公認フィージビリティスタディトレーナー。


【参考】関連法令情報